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「事業仕分け」に対する計算センター運営委員会のコメント

「事業仕分け」に対する「自然科学研究機構計算科学研究センター運営委員会」からのコメント

 現在、進行している「事業仕分け作業」について、自然科学研究機構岡崎共通研究施設・計算科学研究センターの運営委員会として意見を述べると同時に我が国の今後の科学技術政策に関する提言を行ないたい。

 国民の目線に立って国家予算の見直しを行なうという今回の「事業仕分け作業」は、従来の自民党政府による「官僚主導型」の予算編成に比べると大きな歴史的転換として評価できよう。しかしながら、その「仕分け作業」のプロセスおよび出された結論には大きな疑問を抱かざるを得ない。中でも科学技術関連予算に対して出された「凍結」や「大幅削減」という結論は、我が国の将来を真に見据えた見識ある委員会の結論とはとても思えない。ひとり「科学技術」だけではなく、経済基盤も含めてわが国全体の将来展望に深く関わるだけに決して聞き捨てにはできない問題を孕んでいる。

 そもそも今回の政府予算の「見直し作業」の趣旨は新政権のマニフェストに沿って「政治家主導」で予算の再編成を行なうことにあり、そのマニフェストの重要な柱のひとつは「地球温暖化対策」すなわち「環境・エネルギー」問題の解決に向けて集中的な国家的取り組みを行なうことにあった。このことは、先頃の鳩山演説で示された「温室効果ガス25%削減」発言からも明白である。現在、加速度的に進行している地球温暖化・エネルギー危機から脱却し持続可能な社会を実現する唯一の方法が「化石燃料」から脱却し、「太陽エネルギー利用」に基礎を置く新しいエネルギー源の創出にあることは国際社会が一致して認めるところである。そして、基礎から応用に至る科学技術の加速度的な発展こそがそのような「エネルギー革命」を可能とする本質的要件であることは火を見るよりも明らかである。さらに、つけ加えれば、環境・エネルギー危機からの脱却無くして、現在世界を覆っている経済危機からの脱却もありえないという認識はすでに一年前に米国のオバマ大統領の『グリーンニューデイール』演説で表明され、今や国際的な常識になっている。そのような認識から米国、中国、韓国などでは「環境・エネルギー」を中心に科学・技術への予算を大幅に増加させ、それを駆動力として経済復興も成し遂げるという「一石二鳥」政策に転じているのである。もし、ひとり我が国が逆の政策に奔り、科学技術予算を減らす愚策を採るならば、それは科学技術の面で再び米国の後塵を拝することを意味するのみならず、経済的にも取り返しのつかない国家的損失をもたらす可能性無しとしない。

 自然科学研究機構岡崎共通研究施設・計算科学研究センターは分子科学分野および生命科学分野における計算科学の共同利用施設として、毎年、600名以上におよぶ研究者に計算機資源およびソフトウエアを提供してきた。本センターを利用して行なわれた研究の成果は基礎的学術研究として「物質」や「生命」の基本的成り立ちに関する人類の理解を著しく深めただけでなく、環境・エネルギー問題やウイルス性感染症など人類が直面する課題を解決する上で基礎的な知見と方法論を与えるものである。一方、現在の計算科学は分子レベルでの研究が大いに進展した結果、基礎と応用が限りなく接近し、基礎研究の成果が「エネルギー・環境」や「医療」など人類の直面する重要な問題の解決に直接結びつく大きな可能性を秘めている。中でも基礎科学として発展してきた計算科学は少なくともソフトウエアの面では太陽エネルギーの有効利用に関わる科学・技術や「医薬品」の設計に応用できるレベルに成長しつつある。「次世代スパコン」はそのような計算をハードウエアの面から可能にするものであり、我々はその完成を大いに期待しているのである。

 以上の視点から、我々は新政府に対し、「エネルギー・環境」問題や「医療」など全人類的課題をしっかりと見据えた国家予算の編成に取組むこと、また、そのために短期的・対処療法的な施策ではなく、基礎から応用に至る「学術」および「科学技術」への重点的な投資を軸にした予算配分を行なうよう提言するものである。



自然科学研究機構 計算科学研究センター 運営委員会
計算科学研究センター長・平田文男
計算科学研究センター・教授・江原正博
計算科学研究センター(併)・教授・斉藤真司
計算科学研究センター・准教授・奥村久士
分子科学研究所・教授・永瀬 茂
分子科学研究所・准教授・信定克幸
基礎生物学研究所・教授・長谷部光泰
基礎生物学研究所・教授・望月敦史
生理学研究所・教授・久保義弘
生理学研究所・教授・永山國昭
北海道大学・教授・武次徹也
横浜市立大学・教授・木寺詔紀
東京大学・教授・押山 淳
京都大学・准教授・松本充弘
東京大学・教授・中井謙太